あれから数十年の時が過ぎ、一人の女性がペンを走らせていた。

白髪が少し混ざった黒い髪を腰まで伸ばし、少しだけシワの刻まれた手で、彼女は彼女の物語を綴った。

一通り書き終えると、女性は満足そうに微笑み本を閉じて、窓の外へと視線を移す。

暫くしてノックが響き、女性はドアを見る。

「はい」

「調子はどうだ?アマネ」

「良いですよ。ウィル」

アマネと同じように、少し歳を重ねたウィルは、薔薇の花束を持っていた。

「それ、フランツからですか?」

「ああ。何年たってもやることがキザだなあいつ」

呆れたように笑って、近くの机へと置くとアマネの側による。

「あいつらも、もうすぐ来るってよ」

「……ウィル」

「ん?」

アマネは本をウィルに差し出した。

「これは、私達の物語です」

「……書けたんだな」

ウィルは本を受け取ると、どこか寂しげに目を細める。

「約束を、果たせましたから」

アマネとウィルが結婚するまでに、また少し色々あり、ウィルにプロポーズをされた時、アマネはウィルにあることを告げた。

けれども、ウィルは笑って受け止めた。

「ウィルは、長生きしてくださいね」

「………ああ。お前が得られなかった時間を、お前の分まで生きるよ。だから、役目を終えたら必ず迎えに来てくれよな」

アマネは笑ってウィルを見上げた。

「ええ。……もし途中で力尽き、あの世に片足突っ込むような真似をしたら、額に拳銃突き付けて現世に叩き戻しまから」

「何でお前はこう言う時まで物騒なんだよ!全く、お前はやっぱりアマネだな」

「当然ですよ。私はアマネでしかありません。あなたの妻であり、相棒ですよ?後二人の子を持った母親ですね」

アマネはそう言ってから、悪戯っぽく口端を上げる。

「私、夢があるんです」

「?夢?」

「もしもこの世に生まれ変わりと言うものがあるのならば、私はまたあなたに出会って、あなたに恋をし、あの子を産みたい。生まれなかった子も。今度は双子でもいいですね」

微笑みながら、手の甲に顎を乗せたアマネは、やはり変わらないなとウィルは思う。

「……叶うだろ。その願いはな」

「はい!」


そして一週間後、彼女は最後まで幸せそうに微笑んで神様の元へと旅立った。

彼女の残した本は、彼女の子供、そして孫へと受け継がれ、やがて日本へと運ばれた。