「……これが、私の過去です」
「……僕は日本で、君の縁談相手の家族から東雲家のことを聞いた。東雲家は一家全員火事で亡くなり、東雲家と縁談を組んでいたという男性は、何者かに殺害された」
フランツはウィルの紐を外してから、アマネを振り返る。
「その何者かは弟です」
アマネの言葉に、フランツは頷く。
「蔵の中から子供の骨が見つかり、側には血のこびりついた包丁が転がっていた。普通に考えれば、君が殺人事件の犯人だ。けれど、不可解なことがあった」
フランツはどこか遠くを見つめる。
「東雲家の名簿には『天音』と言う名前は載っていなかった。君は最初から居なかったことにされていたんだ。縁談相手の男性の家族は、君のことを『東雲家で飼われている娘を引き取るために、縁談を組んだ』と言っていた」
「ええ。あの人達にとって、私は東雲家の人間でも我が子でもなかったのでしょう。私は産まれてこなかったことになっているんです。そして、縁談相手の男性は、それを知って、私を欲したんですね。遊び相手に」
俯いてお腹に手を当てたアマネに、フランツもウィルも声を発することが出来なかった。
「私は、弟を追い詰め、守ると誓った命も守れませんでした」
声が震える。今でも思い出すのだ、あの時の痛みを。
「……私……は……」
「もういい!」
アマネの言葉を止めたのは、ウィルだった。
「分かったから。だから、もう自分を責めるな」
ウィルはアマネを抱き締め、穏やかな声で囁いた。
「話してくれてありがとな。お前の過去を知れてよかった」
「ウィル……私は」
「確かに驚いたし、お前をそんな目に合わせた男もお前の両親も最低だと思う。お前の弟だって、結局姉ちゃん取られるのが嫌だっただけだ。お前は悪くないだろ」
ウィルはアマネを抱き締める力を強める。
「でもな、どんな過去があったとしても、やっぱりアマネはアマネなんだよ。過去があって今のアマネがいるんだ。だから、俺はお前の中にある過去と、お前の中に宿ってた命ごと、お前を貰う」
「!!」
ウィルの言葉が、アマネの心の中に染み込んでいく。
「良いんですか……穢れている私でも……」
「お前は穢れてねぇよ。穢れてたとしたら、上書きするだけだ」
ウィルの言葉に、アマネは目頭が熱くなる。
(………ああ。泣くってこういう風でしたっけ)
泣き方も忘れていたのに、ウィルの腕の中でアマネは小さな雨を降らせた。
「……勝負は、君の―いや、君達の勝ちと言うべきかな」
アマネは顔だけフランツを見る。フランツはどこか悲しそうな、けれども穏やかな顔をしていた。
「フランツ、貴方は最初から―」
「どうやら、僕には君の全てを受け入れる覚悟は無さそうだからね。……でもねウィル」
アマネの言葉を阻み、フランツはウィルを愛称で呼ぶと、ウィンクをする。
「もし彼女を傷付けたら、僕は彼女を奪いに来るよ。例えフランスからでもね」
「望むところだ」
ウィルの答えに満足したのか、フランツは背を向ける。その背に、アマネは声をかけた。
「いつか貴方が幸せになったら、また会いましょう」
アマネの言葉に、フランツはただ笑って頷いた。
こうして、アマネとウィル、黒の貴公子の勝負は幕を閉じたのだった。
「……僕は日本で、君の縁談相手の家族から東雲家のことを聞いた。東雲家は一家全員火事で亡くなり、東雲家と縁談を組んでいたという男性は、何者かに殺害された」
フランツはウィルの紐を外してから、アマネを振り返る。
「その何者かは弟です」
アマネの言葉に、フランツは頷く。
「蔵の中から子供の骨が見つかり、側には血のこびりついた包丁が転がっていた。普通に考えれば、君が殺人事件の犯人だ。けれど、不可解なことがあった」
フランツはどこか遠くを見つめる。
「東雲家の名簿には『天音』と言う名前は載っていなかった。君は最初から居なかったことにされていたんだ。縁談相手の男性の家族は、君のことを『東雲家で飼われている娘を引き取るために、縁談を組んだ』と言っていた」
「ええ。あの人達にとって、私は東雲家の人間でも我が子でもなかったのでしょう。私は産まれてこなかったことになっているんです。そして、縁談相手の男性は、それを知って、私を欲したんですね。遊び相手に」
俯いてお腹に手を当てたアマネに、フランツもウィルも声を発することが出来なかった。
「私は、弟を追い詰め、守ると誓った命も守れませんでした」
声が震える。今でも思い出すのだ、あの時の痛みを。
「……私……は……」
「もういい!」
アマネの言葉を止めたのは、ウィルだった。
「分かったから。だから、もう自分を責めるな」
ウィルはアマネを抱き締め、穏やかな声で囁いた。
「話してくれてありがとな。お前の過去を知れてよかった」
「ウィル……私は」
「確かに驚いたし、お前をそんな目に合わせた男もお前の両親も最低だと思う。お前の弟だって、結局姉ちゃん取られるのが嫌だっただけだ。お前は悪くないだろ」
ウィルはアマネを抱き締める力を強める。
「でもな、どんな過去があったとしても、やっぱりアマネはアマネなんだよ。過去があって今のアマネがいるんだ。だから、俺はお前の中にある過去と、お前の中に宿ってた命ごと、お前を貰う」
「!!」
ウィルの言葉が、アマネの心の中に染み込んでいく。
「良いんですか……穢れている私でも……」
「お前は穢れてねぇよ。穢れてたとしたら、上書きするだけだ」
ウィルの言葉に、アマネは目頭が熱くなる。
(………ああ。泣くってこういう風でしたっけ)
泣き方も忘れていたのに、ウィルの腕の中でアマネは小さな雨を降らせた。
「……勝負は、君の―いや、君達の勝ちと言うべきかな」
アマネは顔だけフランツを見る。フランツはどこか悲しそうな、けれども穏やかな顔をしていた。
「フランツ、貴方は最初から―」
「どうやら、僕には君の全てを受け入れる覚悟は無さそうだからね。……でもねウィル」
アマネの言葉を阻み、フランツはウィルを愛称で呼ぶと、ウィンクをする。
「もし彼女を傷付けたら、僕は彼女を奪いに来るよ。例えフランスからでもね」
「望むところだ」
ウィルの答えに満足したのか、フランツは背を向ける。その背に、アマネは声をかけた。
「いつか貴方が幸せになったら、また会いましょう」
アマネの言葉に、フランツはただ笑って頷いた。
こうして、アマネとウィル、黒の貴公子の勝負は幕を閉じたのだった。