※ここから先は、人によっては気分が悪くなる(胸くそ悪い)表現が含まれますので、お読みになる時はご注意下さい。


私は、日本の華族(※貴族のこと)である東雲家の長女として生まれました。

生まれた時から記憶力の良い脳は、回りの声を刻み込みます。

「何だと?女が産まれたのか!!」

目は開きませんでしたが、厳格な男性の声が聞こえました。

「ふんっ。役に立たん!何故女を産んだ?!女など跡継ぎにもならん。せいぜいその辺の家に嫁がせるくらいだ」

東雲家当主、つまり私の父は跡継ぎを欲しがっていました。日本ではイギリスよりも女性の地位は低いんです。

ですから女として産まれた私を、父が気に入るはずもありませんでした。

あの人にとって大切なのは、家の繁栄だけですから。家族や友人は彼の駒に過ぎません。

「どうして貴女は女なの?どうして男に生まれなかったの?」

私の首を、震える手で締める母の低く押さえつけた声が、幼い私の頭の中に響きました。

意味など分からなくとも、望まれなかったと言うことは何となく察したのでしょう。

乳母の話では、私は泣くことをしなかったそうですから。


年月が過ぎ、物心がつく頃には、私の世界は自分の部屋の中だけでした。

徹底的に監視され、外へ出ることは許されず、部屋の中で習い事や礼儀作法を叩き込まれました。

勉学は記憶力のおかけで覚えは良かったのですが、女性が習う習い事はどうやら合わなかったらしく、中々上達しませんでした。

けれども、出来ないものはしょうがないと思う人はこの家にはいません。出来なければ、私は屋敷の奥にある薄暗い蔵の中に閉じ込められました。

一度餓死寸前まで閉じ込められてからでしょうか。私は蔵や小屋と言った暗くて狭い所が怖くなりました。

私はもう蔵に閉じ込められたくはない、その思いで必死に習い事を身に付けようとしました。

けれども、やはり身に付けられたのはほんの一部だけでした。

「何で言われたことが出来ないの?!役立たず!役立たず!役立たず!!」

「ごめ、ごめんなさい!ごめんなさい!」

頬に痛みが走ったと思ったら、私は畳の上に転がっていました。

幼かった私は、私を産んだ母にだけでも愛されようと一生懸命でしたが、母にとっては私などどうでも良かったのでしょう。


「奥様がついにご長男をお産みなさったそうです」

八才になった日。私は乳母から弟が産まれたことを聞きました。

どうしても見たかった私は、こっそり部屋から抜け出して母のいる部屋へやって来て、障子の隙間から覗きました。

母は、私が見たことない顔で微笑んで、腕に抱えている赤ん坊を見ていました。

「!何故ここにいるの?部屋に戻りなさい!!」

私に気付いた母は笑顔を消し、私を睨みました。

「!……お母様。その子」

「近寄らないで。この子はこの家の当主になる大切な子なのよ。賢い貴女なら、この意味が分かるんじゃないかしら?」

別に、弟を憎いとは思いませんでした。少しだけ羨ましいとは思いましたが、母の笑っている顔を見れたことが嬉しかったんです。

ですから、母を笑顔にしてくれた弟の顔を見ようと思っただけでした。

弟と私は、父と母がいる時は滅多に会えませんでしたが、二人が出掛けている時は、私がこっそり弟に会いに行って世話をしました。

弟は無邪気に私を見て笑い、私が琴で習った曲を聴かせると眠りにつきました。

幼心に、愛しいと言う気持ちで弟の面倒を見ていました。

そのせいか、弟は私にとてもなついてくれたんです。私を慕い、無邪気に手を握る弟が居てくれれば、私は頑張れると思いました。