「ごほっ!またチョークの粉かよ!……おい、大丈夫か、アマネ」

「……っ……」

「アマネ?」

その場に座り込み、口元を押さえたアマネに、ウィルは慌てて近寄る。

「おい。あいつに……」

その後の言葉を言うのを躊躇った。ウィルは離れた所から二人を見守っていたが、先程の光景に、我慢が出来なくなった。

(あいつは、お前に………)

はっきり見たわけではない。けれども、もしウィルの予想通りなら―。

そう思った途端、怒りに似た何かが込み上げてきた。

「……ウィル?」

顔を上げたアマネに、ウィルは顔を近付けた。

「?……どうし―」

アマネの言葉は、最後まで続かなかった。ウィルの唇が、アマネの唇を塞いでしまったのだから。

「!」

世界が、時間が止まったような感覚。やたら記憶力のいい脳は、考えることを拒否した。

重なりあった熱だけが、やたらと記憶に刻まれていく。

暫くして、ウィルはアマネから離れる。

そして次の瞬間―。

「すみませんでした!!!」

土下座で謝った。それはもう額から血が噴き出すほど強く地面に叩き付けて。

(やってしまった!やってしまった!!やってしまったぁぁぁぁ!!?馬鹿だろ!?俺の馬鹿!!)

いくら頭に血が登ったとは言え、やっていいことと悪いことがある。

嫉妬で頭が一杯になったからと、何をしてるんだと。ウィルは時間を戻せるならやり直したいと思った。

「ごめん、マジごめん!もうあれだ、撃っちゃって良いから!!」

「………」

返事のないアマネが怖く、ウィルは頭を上げられない。だが、あまりにも反応が無さすぎて、目線だけちらっと上に動かす。

「………」

そこには、怒るでも困るでも、または興味なしという顔でもない、どこか悲しそうな目をして、震えているアマネがいた。

「アマ……ネ……?」

「……っ!」

ウィルの声に我に返ったようにハッとすると、立ち上がる。

「……帰りましょうか」

「……」

いつも通りの淡々とした声ではなく、震えを押さえるような声でアマネが言い、ウィルはただ黙ってアマネの後を着いていくしかなかった。