「……でも、流夜くんが先生じゃなかったら、私は逢ってなかったよ」
 

コト、と箸が机に触れた。あの日の見合い相手が流夜くんでなかったら、自分はどうなっていただろう。


いや、どうもなっていなかった。


今までと変わらず、生きることをゆるしてもらうためにがんばっていた。


胸を張って生きてはいられなかった。
 

寄りかかっても安心出来る人なんて、知らなかった。


抱き留めてくれる腕を。
 

やわらかなあたたかさを。


「……そうだね。私も同じ学校だと聞いたときはどうしようかと思ったよ。まさか春芽くんがそれを知らないわけがないしね。知った上でふっかけやがったな、とも思った。……どうだい? 咲桜は、流夜くんで」


「……うん」
 

それ以上の言葉はない。


在義父さんは「そうか」と呟いて、味噌汁の椀を傾けた。

 
どうしよう……。
 

危ない。


さっき別れたばかりなのに、もう流夜くんに逢いたい。


逢って訊きたいことが、たくさん出来てしまった。


少しだけ恨めしく、その原因である在義父さんに気づかれないように睨んだ。