咲桜は首を横に振る。


そんなこと、ない。小さく、そんな声がした。


「……頼が……」
 

抱き寄せられるまま俺の胸に頭を押し付けた咲桜は、揺れる声を押し出した。


よかった、と呟く。


「大丈夫みたいだな。卒業式までは黙っていてくれるらしいしな」
 

日義の勝手な約束だけど、その日まで、日義は咲桜を裏切ることはしないだろう。
 

咲桜と日義の間にあるのが友情、というには少し歪(いびつ)に見えるけど、しっかりとした絆でもあるようだ。


「……咲桜、今日咲桜の家に行ってもいいか?」


「うち? だったら私がそっちに――」


「逢いに行きたいんだ、俺が。……逢いに来てほしい、じゃなくて。今日くらいはそうさせてくれないか?」
 

いつも、咲桜の方から来てくれるから、今日くらいは。
 

咲桜は小さく肯いた。