「咲桜―」
 

頼より先に教室にいた私は、気だるげな声に呼ばれて、びくりと肩を震わせた。


「あ。おはよう。どうした?」
 

平静を装うけど、声の音程がおかしい気がする。


「咲桜の彼氏、逢わせてよ」
 

私の机の前まで来てそんなことを言うもんだから、驚きで硬直してしまった。


代わりに反応したのは、登校していたクラスメイトたちだった。


「えーっ、咲桜彼氏出来たの⁉」


「誰⁉ 藤城の人っ?」


「わー、おめでとーっ」


「華取、マジで彼氏いんの⁉」


「なんだよ、日義は知ってんのか?」
 

わっと群がってきたクラスメイトに泡喰った。


まさかバカ正直に「神宮先生」なんて言えるはずもなく。