事件後、親戚に引き取り手がなく施設に入れた、あれは誤算だったと思っている。


少しでも早く世間の好奇の瞳から護らねばと、護られる側に立たされた経験のある吹雪や降渡と話したのだが、遙音は俺たちのタイプとは違っていた。
 

遙音は自立心が強い。


だからと言って、当時高校生の自分たちが引き取ることも出来なかったが、もっと方策を考えるべきだった。


遙音のための対応策を。


そんな経緯があって、俺たちは遙音に対して、親代わりではないが似たような立場の感覚だった。


「そろそろ教室戻った方がいいんじゃないか?」
 

時計を見遣ると、時間は経っている。


遙音は「おー」と返事をして、緩慢に資料室を出て行った。


出る直前、少しだけ振り返った。


「じんぐー。末永くお幸せに」
 

にっと言い残して、扉が閉まる音に消えた。


「………」
 

一瞬呆気にとられた。


遙音にそんなことを言われるなんて思ってもみなかったから。
 

末永く。咲桜と。


「……当然」
 

一緒にいるよ。