そんな風に名乗ると、女性はふわっと唇に笑みを見せた。


この方、俺の正体を知って問いかけている。


「然様(さよう)でしたか。確か神宮流夜さん。私は朝間箏子。咲桜の師匠ですよ」
 

朝間――咲桜が何回か口にしていた師匠とはこの人だったのか。


「娘をお呼びですか?」
 

……疑うまでもなく、朝間先生の母親だ。


「いえ。在義さんも信頼する方と伺い、お願いに参りました」


「あら、なんでしょう?」


「今、華取さんの家に咲桜さんしかいません。交際の報告に来たら在義さんとすれ違いになってしまいまして。俺が遅くまでいるのも問題でしょうから引いて来たのですが、一人にしておくのも危険かと思い、気にかけてやってほしいとお願いに来ました」


「まあ……そうでしたか。在義ったらなにをしているのかしら。神宮さん、お手数おかけしましたわね。大丈夫です。留守がちな在義に代わって咲桜を育てたのはわたくしですから、安全は保障いたします」


「よろしくお願いします。……大事な子、なので」