落ち込んでしまった。


咲桜は俺と違い警察内部の話を知るようなことはないから、逃げたとは知らない。


約束が破られたことがショックなのだろう。


「仕方ない。在義さんの仕事ってそういうのだし」
 

……在義さんをかばうためとはいえ、嘘を言うのは気が引ける。


優しさのために嘘をつかないという評価をもらったばかりだから、なおさら胸が苦しい。
 

優しさのために嘘をつくのではなくて、痛みを与えないために真実を話さないだけだ。
 

……どっちにしろ、咲桜にしたら話してくれって思うよな。
 

咲桜はどんどん小さくなる。


「取りあえず、今日は帰るよ。在義さんには、俺からも時間を作ってもらうように話すから」
 

ぽんぽん、最後とばかりに頭を軽く叩いた。はっと咲桜の顔が仰向いた。


「もう、帰るの?」
 

光に揺れる瞳に息を呑んだ。


こいつ……こんな儚げな瞳をしていたか? 


駄目だ。どんどん惹かれていく。呑まれていく――いっそ溺れてしまいたいくらいだ。
 

意識が咲桜だけになりそうなのを、迫る危機の現実ひとつで戻した。


「そろそろ帰らないとお隣が殴りこんできそうだからな」
 

わざと茶化すように言って、手を引いた。


朝間先生のことだから、熊手を持って乗り込んできても今更驚けない。