在義さんの娘、というフィルターが消えて、一人の存在として立っていた。
 

勿論、教師として生徒を護りたかった、とか後付の理由はいくらでもあるけど、思い返せばただゆるせなかっただけなのだ。


この子に対してのそういう位置を、他の男にやりたくない、と。
 

そういう位置。
 

俺に提示されたのは、婚約者という位置。
 

結局は偽婚約という形で収まったが、それでよかったと安心する部分すらあった。
 

たとえ偽モノでも、咲桜に対してのその位置には今、自分がある。
 

ほかには誰もいない。
 

……いつからかはわからない。


ただもう、その時点で大分惚れていたんだと思う。
 

いつか、自分の中に収まりきらない恋心になるくらいには。