「あ」
咲桜は自分の首に手をやった。
いつもはタートルネックのアンダーシャツを着て、覆っている肌が露出されている。
……母が遺した見えない傷になにかが――言葉すら――触れるのが恐怖で、首筋をさらすことが出来ないでいたという。
「なんかね、大丈夫になったみたい」
咲桜の恐怖心のない笑顔に、正直驚いた。
以前そのことを訊いてしまったときは、過呼吸を起こして泣き出すほどだったのに。
「……なにか、あったのか?」
まさか、桃子さんの最後の手紙を読みでもしたのか?
まだあれを、在義さんが見せるとは思えないけど……。
「わかんないんだけど、いつの間にか気になんなくなってた。いい傾向かな」
意外と大雑把だった。
けど、確かにそれはいい傾向かもしれない。
「よかったな」
俺からも、笑みを返した。



