朧咲夜2-貫くは禁忌の桜と月-【完】



「あ」
 

咲桜は自分の首に手をやった。


いつもはタートルネックのアンダーシャツを着て、覆っている肌が露出されている。
 

……母が遺した見えない傷になにかが――言葉すら――触れるのが恐怖で、首筋をさらすことが出来ないでいたという。


「なんかね、大丈夫になったみたい」
 

咲桜の恐怖心のない笑顔に、正直驚いた。


以前そのことを訊いてしまったときは、過呼吸を起こして泣き出すほどだったのに。


「……なにか、あったのか?」
 

まさか、桃子さんの最後の手紙を読みでもしたのか? 


まだあれを、在義さんが見せるとは思えないけど……。


「わかんないんだけど、いつの間にか気になんなくなってた。いい傾向かな」
 

意外と大雑把だった。
 

けど、確かにそれはいい傾向かもしれない。


「よかったな」
 

俺からも、笑みを返した。