向こうから、こちらに咲桜と松生がいることを知るのは容易だ。


まずこの二人、物音を立てないとか気を付けていない。


こっそり窺うために来ているわけではないから注意していないようだけど、存在はまるわかりだった。


……それに気づいてか、いつものように遙音の乱入はない。
 

ふと、時計を見遣った。今は昼休み。まだ終わるまでは遠い。
 

遙音がいて、向こうは松生がいることもわかっている。ケリをつけるには頃合いか。


「咲桜」
 

来い来い、と手招きすると、咲桜は素直に寄ってきた。


口元に指を立ててから、隣の教室を指さした。


……懐かしい動作だな。あのとき隠れていたのは愛子だった。
 

咲桜は一度だけ瞬いたが、すぐに意味を理解したようだ。大きく肯く。