「あれ?」
 

旧校舎の廊下を歩いていると、窓の外に小走りで出て行く女生徒の姿が見えた。


今まで旧校舎に生徒の影を見たことはない。


あれは……と、俺は記憶をめくる。


一年生の女子だ。名前はよく知っている。華取咲桜だ。あの子の――


「……え?」
 

華取。


その名は、俺には聞き馴染んだものだった。


むしろ今まで気にしないでいたことに不審を覚える。


「神宮―、今、華取本部長の娘が出てったんだけど、知り合い?」
 

資料室の扉を開けると、中にいた神宮の肩が跳ねたように見えた。……あ?


「またお前か」
 

うんざりしたような顔も、もう見慣れた。


俺が小学生の頃からの付き合いだからかねー。
 

……神宮たちは、俺がそっちに関わるのを快く思っていない。


それも知っていて、俺はここにいるけどな。
 

一つだけ置かれた机に据えられた回転椅子に腰かけていて、タブレット端末で何かを読んでいるようだ。


どーせ外国(そと)のニュースか論文かだろ。


「で、知り合い?」