「あ、父さん?」
 

夕飯の準備でキッチンに立っていると、ダイニングテーブルに置いたスマートフォンに呼ばれた。


出ると在義父さんからの電話だった。


『ごめん、今日は帰れなくなった』


「わかった。気を付けてね」


『ありがとう』
 

何があって署に泊まりになるのか、在義父さんは詳しくは話さない。


私も、自分から訊いたことはない。


そこは私が関わるべきではないと承知している。


……そういう風に育てられたからか、自分でその境界線を破ろうとは思わなかった。


『あと咲桜、流夜くんのことなんだけど……』


「うん? 先生にはお弁当は渡したよ? マナさんに頼まれてるやつ」
 

在義父さんには、マナさんから先生へ食事の差し入れを頼まれたことは話してある。


『……そうか。流夜くん、何か言ってたか?』


「んー? 世間話しただけ、かなー? あ、あと、先生うちの呼ぶの、私に遠慮しないでいいからね?」


『……そうか』
 

何故かさっきの『そうか』と違って、黒い響きに聞こえた。


私の気のせいだろうか。