「流夜くんが住んでるアパートと、咲桜ちゃんの家って結構近いみたいなの。だから、本当に都合つくときだけでいいから、ご飯差し入れしてやってほしいの。……だめかな?」


「そのくらいだったら問題ないですよ。先生に来るなって言われたらどうしようもないですけど」
 

受け取る受け取らないは師匠の意思だ。


私としては、それこそマナさんへの恩返しの意味も含めて、マナさんの願いを叶えたいと思う。


さすがに見合いしろ、には困ったけど――ご飯を作るくらいでいいなら、なんてことはない。


「本当? ありがとう、咲桜ちゃん」
 

マナさんは蘭の花みたいに絢爛な笑顔を見せる。


いつ見ても笑顔が素敵な人だ。


「じゃあ、これ、流夜くんの連絡先と住所ね。一応渡しておくわ」


「あ、はい」
 

手渡されたメモ用紙。


教師の連絡先なんかは興味がなかったから一人も知らないけど、生徒に訊かれて教えている教師がいることは知っていた。


……これって私はお仲間入りしたと言えるのだろうか? 学校の先生ではない方の先生と知り合いになっちゃった気分だよ。
 

それから久しぶりにマナさんと二人で時間を過ごした。


マナさんはキャリアだから、忙しさは半端じゃない。


年を経るごとに逢える時間は少なくなっていたから。
 

母とも姉とも慕う人。


一緒にいられて嬉しくないわけがない。


ここに夜々さんがいたらもっと楽しいだろうなー、と考えながら、私はマナさんの笑顔を見ていた。
 

神宮先生は教師だけど、マナさんが結んでくれた縁だ。せっかくだから大切にしたいと思った。