朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】



「ええ、本当よ。先輩の場合、元は警視庁にいたから顔を知られているし、自ら県警へ移られたとはいえ、元々凄腕だからね。先輩の周りには味方がたくさんいて、流夜くんもその中の一人みたいなものよ。でも、なんの派閥や後ろ盾もない先輩だから、後ろに取り入る隙が無くて、先輩自身に近づくって言ったら、咲桜ちゃんが狙われるでしょう。先輩の系譜を作るために、一番取りつきやすいのは一人娘の咲桜ちゃんなのよ」
 

警察って、結構派閥なものだからね、とマナさんは苦笑した。
 

そこまで言われれば、なんとなくわかってきた。


華取在義の一人娘、というのは、自分が思う以上に大きいようだ。


「それで神宮先生ですか……。私たちが藤城だって、マナさんが知らないわけがないですよね?」


「ええ、勿論」


「じゃあなんで勧めたんですか? マナさんが元々本当に婚約なんかさせる気がなくても、危ないじゃないですか」
 

勘のようなもので、薄々気づいていた。


マナさんは今日の件、本当に婚約までさせる気なんてない。


現状が、マナさんが狙ったものではないかと思う。


「面白そうだから」
 

にっこり、また艶っぽい笑みを見せた。


あーはいはい、マナさんはそういう人だ。私は簡単に納得した。