朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】



私にも心配はあった。


さっきから私と在義父さんのため――という言い方をする先生とマナさん。


けれど、先生は社会人で当然結婚の話があってもおかしくない年齢だ。


仮婚約だろうと、受けてしまってはむしろ先生への弊害の方が大きい気がする。


「俺は気にしなくていい」
 

先生は大した感情も見えない声で答えた。


「本人がこう言うんだから、流夜くんの方は気にしなくていいわよ。――これで、今のところの問題は解決かしら?」
 

マナさんはにっこり、妖艶な笑みを見せて首を傾げた。


そこまで言われては、私に問題は見つけられなかった。


むしろ、マナさんの策に乗るのは嫌だと言っていた先生が、簡単に受けてしまったのでどうしようもなかった。
 

下手なことは言わなかったと思うけど、どうしたもんかな展開になってしまった。


……やっぱり自分で処理出来る範囲では提言しておくべきだったか。


……そう思ったところで、何が言えたというわけでもないだろうけど……。
 

仮婚約と言っても、マナさんが言った通りただの口約束で、知るのはこの場の四人に限られた。


どうしてか先生は、そこは納得できないという顔をしているように見えたんだけど……。