《白》の猫の鈴が鳴る。
 

龍さんの手伝いで茶葉の整理をしていた俺は、その音にはっとして振り返った。


在義さんだ。


「待たせてしまったかな、流夜くん」


「いえ」
 

軽く会釈する。


在義さんは、口調こそいつも通りだったが、纏う雰囲気は違う。


一言、苛烈。


『華取本部長』の色に近い。


「流夜、もういいから在義んとこ行ってやれ」
 

龍さんに促され、カウンターを出た。


本当は手伝いを要求されたわけではないけど、待っているだけはどうしても落ち着かなくて申し出たのだ。


「龍生、すまないが奥の部屋使ってもいいか?」


「お? おお、すきに使え」
 

在義さんの提言で、カウンターの奥へ入る。


龍さんが休憩室として使っている部屋だ。
 

中は小さな机と椅子と本棚、テレビがある。


机を挟んで、在義さんと向かいに座った。


「私から話、と言うか、見てもらいたいものがある」
 

在義さんが懐からくたびれた封筒を取り出し、それを受け取った。


宛名も差出人の名前もない。


「桃の最後の手紙――見ようによっては、桃の遺書になるかもしれない」