朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】



あまりに私が苦悩しているからか、神宮先生はそう提案してきた。
 

どういう意味だろうと顔をあげた私が見たのは、神宮先生だったけど、纏う雰囲気が学校の『神宮先生』だった。


「――急なこと言ってすみません。でもそうしてもらえると俺も助かるし、華取さんの被害も少なくてすむかと」
 

華取さん――学校では、『神宮先生』には確かにそう呼ばれている。


だから、素の神宮先生が受け入れられないのであれば、学校と同じように対応してもらえれば確かにいいのかもしれない――と思ったのに、なぜか感じたのは痛みだった。


それがどこへ繋がる痛みなのかはわからなかったけど、息が詰まるような痛みを感じた。


……なんだこれ。


「……華取さん?」
 

また顔を覗き込まれた。変らない衝撃の美形。


……でも、なんでか、その顔が『神宮先生』なのが嫌だった。


「……わかりました。言う通りにするから、その……話し方、戻してください」
 

……そう言葉にするのは難しかった。


なぜかとても恥ずかしいことを要求している気になるから。


先生は二度、瞬いた。


「……どっちへ?」