「咲桜!」
 

咲桜が玄関のドアノブに手をかけると同時に、在義さんが飛び出してきた。


後ろにいた俺もびっくりした。


「うあっ、父さん」
 

疲れた様子の在義さんに、咲桜が驚きの声をあげた。


「こんな時間に帰ってくるとか、心配で流夜くんのところに乗り込むところだったよ」


「大袈裟だって。雨止まなかったから仕方ないでしょ」
 

咲桜は咎められてもあっさりしていた。


力関係、本当に咲桜が上だな。


「すぐに朝ご飯作るね。父さんはさっき帰ってきた? ご飯食べたら出勤まで少しは寝てね。流夜くんも入って」
 

呼ばれた俺は、顔を強張らせるしかない。


ギリッと在義さんに睨まれ続けているからだ。


逃げ出したい。


在義さんが薄く唇を開いた。


「流夜くんには面倒かけたね。……少し色々詳細まで話を聞かせてもらおうか」


「………」
 

在義さんの瞳に炎がちらついて見える。
 

せっかく咲桜が腕の中にいた朝なのに、自分、二千回地獄にでも落とされたようだ。