規則正しい寝息を立てる咲桜を腕にして、なんとも言えない心地だった。


泣きつかれて寝てしまったようだ。
 

――もう戻れない位置まで踏み込んでしまったことは確実だ。
 

わかっている。この子が愛らしいだけの存在ではなくなっている。
 

咲桜から聞いた話は衝撃しかなかった。


在義さんの妻は病死と聞いていた。


だが、咲桜の記憶ではそれだけではないようだ。


まさかという可能性も、複数出て来た。


……そのことで咲桜が負った傷は計り知れない。


見えない傷痕。
 

それでも、


「……生きてくれて、ありがとう」
 

いてくれてよかった。出逢えて嬉しい。


そんなありきたりな言葉しか出てこないけれど、咲桜が今、静かに息をしているだけで愛おしい。


自分の腕の中で、なんて猶更嬉しくなるだけだ。
 

少し腕の位置を変えても起きないので、本格的に寝てしまったようだ。


そっと抱き上げ、隣の部屋――本の部屋のベッドに寝かせる。


家事はろくに出来ないけど、掃除だけはしているから大丈夫なはずだ。