朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】



心配が募って言うと、先生はソファの上に正座して、差し出すようにブレザーを返して来た。


なんでそんな態度を……。


「いや、大丈夫だ。……すまなかった、上着を借りてしまったようで……殺される……」


「なんでですかっ⁉ あの、本当に錯乱してません? 熱の所為で、っていう現象起きてませんかっ?」
 

先生の言葉の文脈がゼンゼンわからない。


熱の所為で神経やられたとかじゃないよね? 心配過ぎるよ、この人。


「……出来たら今のことは在義さんには黙っててもらえると、俺の寿命は二年くらい伸びると思う……」


「在義父さんが先生の命握ってるんですかっ⁉ どんな状態ですか怖いですよ! 大丈夫です絶対言いませんから!」
 

私の言葉一つで先生の命が二年も動くなんて、黙っている以外の選択肢こそない。


先生は、本気で安心したみたいに息を吐いた。


「それより、もう遅くなってしまったろう? 送って行く」


「へ? いえ、言われた通り十分しか経ってませんけど……?」
 

私がここへ来たのは五時前だったから、まだ遅いって言われる時間ではないと思うんだけど。


先生に向けて時計を指さすと、先生が固まった。


「……………すごい時間寝てたと思った……」
 

顔を手で覆って、先生がぽつりと言った。


あ、ちゃんと寝ていたんだ。