朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】



「……悪いが、そこまで華取を巻き込めない。が、この件も――有耶無耶にして愛子が退くと思うか?」


「退きませんね」
 

神宮先生と私、同じタイミングで肯いた。


「先生は、何と言われてここへ?」
 

私も声を潜めて問う。


私は生徒だから『先生』と呼ぶことに躊躇いはないのだけど、神宮先生は居心地が悪そうに見えた。


プライベートだからかな? それとも、素の顔を知られたくなかった……という可能性の方が大きいかな。


先生は簡単な言葉で答えた。


「見合いをして結婚しろと言われた」


「……直球過ぎないですか?」


「愛子のやることだ」


「なるほど」
 

そんな返事に納得して肯いてしまう。


「いるのが私だって知らなかったんですか?」


「知らん。俺も断りにくい相手とかぼかして言っていたが……」