盗み聞くような真似をしている夏島先輩に、どこまで話して大丈夫なのだろうか。不安は引いてくれない。


「構わない。どうせどっかから拾ってくるだろう、こいつなら。うちにまで押しかけてくる奴だ」
 

おうちまで? そこまでプライベートな付き合いなんだ……。
 

――そのとき、予鈴が鳴った。


「あ、咲桜行かなくちゃっ。次理科室だよ」


「そうだった。それじゃあ、先生。夏島先輩も……」


「固いなー。遙音でいいよ」


「お前もさっさと行け」
 

先生に小突かれて、夏島先輩は「俺、次自習―」と簡単にかわしている。


賑やかな夏島先輩を残して、私と笑満は資料室を出た。


「あー、急がなきゃだね。走ろ」
 

時間が迫っている。


ここは旧館だから、近道をして行こう。


そう思って笑満を見遣ると、その顔は思案気だった。


「笑満?」


「あ――、何でもないよ。早く行こ」
 

素早くいつもの笑満に戻った。
 

何でもない、ことはないだろう。