車に乗り込んで、思いっきり深く息を吐いた。


在義さんに睨まれることを重ねてしまった……。
 

それでもさっき、華取と一緒にいてよかったと思う。


華取が……泣いてくれてよかったと思う。
 

やっぱり華取は自分を押し殺してがんばっていた。


生きていることをゆるしてもらうために。


「……そんなの、俺がいくらでも支えてやるのに」
 

頼ってくれたら、いつだって華取の味方でいるのに。
 

でもそれは、きっと教師の領分ではないところまで感情がある。


領分ではないそこまで、俺は華取に踏み入ってしまった。


「………」
 

この際だ。愛子が敷いてくれた『偽婚約者』の位置――思いっきり利用させてもらおうじゃないか。