「……なんか、在義さんにぶっ飛ばされそうだ」
 

華取の涙が引いた頃、運転を再開して思わず苦笑気味に言ってしまった。
 

華取は驚いたようにこちらを見た。


「えっ? あ、私が泣いたからですかっ? 傍目にわかりますかっ?」


「目が真っ赤だ。瞼は腫れているし。俺が泣かせたと思われる」


「ごめんなさいっ、父さんは私が説明しますからっ」


「だから――」

 
信号が赤になった隙に、正面から華取の顔を見て右の頬を捉えた。


「そういうことは俺に任せろ。偽婚約者でも頼れよ」

 
幼馴染や弟以外の誰かに頼られるなんて煩わしいだけだった。


そんな俺が、まさか生徒にこんなセリフを吐いているなんて。


なんか、自分が色々変わっているような気がする。変な方向に。
 

華取はぎこちない動きで肯いた。


「よし」
 

否定されなかった。


それだけで、満足した気分だった。