先生の手が、また私の頭に乗った。


さっきは髪を整えてくれた指。


でもその手は頭の上で止まらず、背中まで廻った。


そのまま抱き寄せられて先生の胸に額がくっついた。


急に暗くなった視界にびっくりしていると、囁くような声が聞こえて来た。


「……いてくれて、ありがとう」
 

吐息のようなその声に、言葉に、心臓が跳ねた。
 

大事な人が、出来たら。
 

……もし叶うなら、大事な人からもらいたいなー、なんて、密かに願っていた以上の言葉をもらった気がする。
 

誰にも言う気はなかった願い。


言ってはいけないと十字架をかけていた言葉。


「……ふっ………」
 

そのまま泣き出しても、先生は咎(とが)めはしなかった。


ただ、指先に熱がこもったように感じて、あたたかさは浸み込むようだった。
 

……誰かの前で泣いたのは、笑満と夜々さん以外では初めてだった。