「え?」


「華取は頑張り過ぎだ。学校でも。適度に力を抜いていいんだからな」


「………」
 

反応がない。


気に障ることを言ってしまったかと思いそろりと窺うと、華取は口を半開きにこちらを見上げて固まっていた。


一瞬ドキッとした。


……まずかったか?


「……華取?」


「……あっ、す、すいませんっ。えーっと、今……えと………」
 

華取の声が嗚咽に変わるのがわかって、路肩に車を止め停車ランプをつけた。


「どうした? ……すまない、嫌なことを言ってしまったか?」
 

華取は口元を抑えて首を横に振った。


違うと言いたいようだ。


「いやな、ことなんかじゃなくて……そう言ってもらえたの、初めてで……」


「………」


「今まで、よくがんばってるね、とか、がんばっててえらいね、とは、言ってもらってきました……。でも、そういう風にゆるしてもらったのは、はじめてで……」
 

がんばらないことを、ゆるしてくれたのは……華取の声は小さく、途切れ途切れだ。


「……せんせい、私の母さんのこと……知ってるんですか?」
 

華取の震える声と瞳。
 

俺は、黙ることで答えた。