「あれー、流夜もう帰っちゃったのー?」
 

猫の鈴を勢いよく鳴らせてやった。


まだ二人ともいるかなーとも思ったんだけど。


「帰ったよー。咲桜ちゃんと一緒に」
 

カウンター席でコーヒーを飲んでいた降渡が答えた。


なんだ。もういないのか。


「本当に送って行ったんだ」


「お前が驚いたツラすんなよ。仕掛け人」
 

降渡のにやり笑いの野次に、僕はその隣に座った。


「咲桜ちゃんがいることと、帰る時間を知っててわざとさっき出て行ったんだろ。りゅうを試すためか?」
 

その誰何(すいか)に、僕は愉快な顔を隠しきれない。


「咲桜ちゃん、僕が出てくるのと入れ違いで入ったからね。今までにも在義さんのつかいで見てるから、まあ時間くらいわかるよ。長居する理由も、上総(うち)にはないしね。ちょっと流夜をからかいたいなーと思ってた時期だったから」


「お前の時期感覚ってマジ怖―な」


「なに言ってんの。咲桜ちゃんが来るように仕掛けたのは降渡でしょ?」


「あ、ばれてた?」


「当然。咲桜ちゃんが来るように、マナちゃんあたり使ったんでしょ。流夜が咲桜ちゃんと一緒にいるとこ見たかったんじゃないの?」


「あららー。全バレかよー」