「……ありがとうございます」


「ああ」


「明日もお弁当持って行っていいですか?」


「作ってくれるのか?」


「父さんの分も一緒に作ってますから、いつものことですし」
 

私が言い終わるより先に、先生の手が伸びてきた。
 

その意図がわからず立ち止ると、手は一度中空で停止して、それから私の頭に触れた。


風でなびいた髪を整えてくれたみたいだ。


……なんでこんな素で女子の扱い? 慣れているんだ。


いやまあ、先生のこのパッと見だけでも、女子は放っておかないだろうけど……。


「ありがとう」
 

お礼を言うべきは私の方じゃないかな。


間近な先生に上手く口が廻らず、軽く頭を上下させるしか出来なかった。
 

……『神宮先生』じゃない顔しか、あの日以来見ていない。
 

先生、なんだけど、もう、『先生』ではない気がするのは、なんでだろう。