朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】




《白》を出て少し歩くと、吹雪の勤める上総警察署に着く。


俺が、目立った事件がなくても毎夜来ているのはここだ。
 

涼しくて心地いい気温だ。


ときおり吹き抜ける風は緑のその先に手を繋いでいる。
 

――手が置かれた、あの子の長い髪。触れたのは、一瞬だけ。
 

自身の右手に視線が落ちた。


あの一瞬は、この先に、あの子はいた――……?
 

隣の吹雪が、特に起伏のない声で話し出した。


「龍さんが話したこと、お前が気にすることじゃないんだよ」


「………」


「どうしたのさ、流夜。そんなに娘さんのこと気に入ったの?」


「………」
 

答えられない。
 

気にしないことに、なんて、俺にはもう出来そうにないからか。
 

吹雪はため息を一つ吐いた。


目の前はもう吹雪の職場だ。