朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】



「わかった」


「あ、行く?」


「ここんとこ行ってないしな。けどな、降渡」


「おう?」
 

もう一回睨んでやる。声は平坦になった。


「龍さんとこ行く前にてめえでコーヒー淹れる奴があるか」


「あはは、悪い悪い。いいじゃん、龍さんの上手さが際立つと思えば。ふゆにも来るように連絡すっからさ。行こーよ」
 

ポケットからスマートフォンを取り出して、手早く電話をかける降渡。


こいつに華取のメシをやるのは不服なので、署から戻ってから食べることにして私服の上着を取った。

 
電話はすぐに応答があったようで「じゃー龍さんとこで」という声がして降渡は通話を終えた。


「りゅう、ジャンケン」


「あ?」


「ポン!」
 

反射的にグーを出してしまった。降渡はパー。


「りゅうの負けー。運転お前な」


「………」
 

いつもの勝手なノリだ。


龍さんのところまでは歩ける距離だが、どうせこの後に仕事があるから、俺が警察署に行く途中でおろしてくれということだ。


運転席に乗り込んで発進させた。


「龍さんて咲桜ちゃんのこと知ってんの?」