治癒魔法師の花嫁~愛しい君に誓いのキスを~

「……どこへ、行くの?」

「苦山(ビッター・ベルク)」

「……それって、戦闘の最前線じゃないの!」

 さらりと告げられた言葉に、リーゼは叫んだ。

 二人の祖国、グランツ王国は現在戦争中だった。

 相手は、妖精族(エルフ)。

 人との間に子どもが作れるほど人間に近いけれども、耳の先が尖っているのが特徴の魔物の一種だ。

 人間に比べて細く、体力的には劣っていても、魔法の才能に長けている。

 彼らの生活には、魔法が必需品であり、魔法の元になるマナンという物質を大量に消費する。

 そして魔法を使う人間の国、グランツ王国と、マナンをとりあい、中に休戦を挟みながらも、五十年間戦い続けているのだ。

 その最前線が、人間の国と、妖精族の国との最大の境になるのが苦山だった。

 苦山では、毎日攻撃魔法が飛び交い、剣と剣が打ち鳴らされる音が途切れることがないという。

 戦いは激しく、一度山に赴けば、帰って来るのは死者ばかりだ。

 ことの重大さに、リーゼは、青ざめた。

「ラルフ……!」

 そんな場所になんて、行かないで、と。

 強く願いを込めたリーゼの声に、ラルフは肩をすくめた。

「ま、攻撃魔法がウリのシュヴァルツシルトの端くれなのに。
 俺は、魔法が使えないからな。
 何処かで、身の証を立てないと、誰も納得しないんだ」

 シュヴァルツシルト家に代々伝わる魔法の宝剣、イーゴンでさえ。

 ラルフが正式に譲りうけ、何時も腰に下げているはずなのに、その魔法の力をきちんと使えたためしが無かった。

 魔物の一種である妖精族には触れることのできないほどの強い退魔の力を宿しているほか、様々な魔法が掛かっているにも関わらず。

 純粋に本体を刃こぼれのしない普通の剣みたいに使うのは、ラルフだけ。

 前代未聞のことだ。

 でもな、と、ラルフは目を細めた。

「ヒトと妖精族(エルフ)の戦いは、一対一の喧嘩ではなく、軍隊同士の激突だ。
 何も、火力の大きな武器を一発ブッ放せば終わりじゃねぇ。
 大火力の武器をどう使ってやるかに掛かっているんだ」

 言って彼は、肉食獣の微笑みを見せた。