治癒魔法師の花嫁~愛しい君に誓いのキスを~

 そう。

 リーゼの家は、確かにグランツ王国を二分するほどの大貴族の家系にも関わらず次代を担う後継ぎがいなかった。

 攻撃魔法を使うラファエルの実家とは異なり、リーゼの家は、魔法と言えばせいぜい魔獣の召喚ぐらい。

 他は、主に剣や槍など、物理的な攻撃が得意だ。

 武道の名門らしく、先祖代々直系の男子が継ぐ決まりの上、国王からも貴族の当主は男子でないと認めない、と言われていた。

 なのに。

 正妻、愛人、その他もろもろ。

 大声では言えない立場の女でさえ、当主の種だと認定された子どもたちは、皆、女の子ばかりだったのだ。

 男子がいなければ、家が断絶する。

 焦ったヴァイスリッター家の当主、リーゼの父は、貴族の通う娼館で生まれたこどもを、男の子として育てることにしたのだ。

 それは国王や、公的な人々だけでなく。

 リーゼの父の家となるヴァイスリッター家でさえ、一部にしか知らされていない秘密だった。

 けれどもリーゼをこの誰もいない大草原に連れ出した張本人、ラファエルは、静かに微笑した。

「大丈夫。僕はリーゼの事を全部知ってる。
 その上で僕の花嫁は。君しかいない、と思ったんだ」

「ラファエルさま……」

「そんな風にリーゼは、僕の事を貴族の名前で呼んでくれるけど。
 僕だって、君と同じ娼館で生まれて、一緒に育ったでしょう?
 お家騒動の権力争いの果て。
 こっちに来るまで『ラファエル』なんて仰々しい本名で呼ばれた事はなかった」

 そう言って、ラファエルは深々と息を吐くと、がらりと口調を変えた。

「あのときは……こんな。
 クソ腑抜けた喋り方なんざ、したこともなかったよな?」