治癒魔法師の花嫁~愛しい君に誓いのキスを~

「なに、最初は貴様に褒美をやろうと思ったのだよ」

「褒美……? 王妃を……守った件に……ついては……既に……裏近衛のパウルを…………」

 王妃が暴漢に襲われた事件。

 リーゼ自身は軽い傷を負ったが、王家の誰ひとりとして、髪の毛一本傷めずに事件は解決した。

 そのことで、王妃は、年若い大貴族の当主、リーンハルトをいたく気に入ったようだった。

 そして、普通ならまず誰にも下賜することは無い、自分の側近中の側近、パウルをリーンハルトへ贈ったのだ。

 それから先も、リーンハルトの活躍は華々しいことこの上ない。

 王家のために尽して戦場に赴いたり、国の剣術競技で相変わらず一位を独占したりと相変わらずだ。

 そのたびごとに、金銭や、称号など、活躍に見合うだけの物を貰っている。

 今更特別、王から改めて褒美を貰うようなことはしていないはずだった。


「ああ、あの、裏近衛を貴様にやった話か。
 それはかなり以前の事だな。
 もともと王妃が貴様に贈ると言って聞かなかったのだ。
 王妃個人からの褒美だと思っていい」

「……一体、何を……言っている……のです……?」

 眉を寄せるリーゼに、ヘンリー王が鼻で笑った。

「貴様が、ヴァイスリッター家の当主として、このグランツ王国に良く仕えているからな。
 ここで、今までの働きについて望みのままに恩賞を取らせ。
 今後は世のためだけに、その力を使ってほしいと思ったのだ」

 王国の貴族、それも当主になった以上、王に仕え、王を守り、民を慈しむのに忙しいのは、判っているが。

 この世の楽しみ方を知らぬようだから、教えてやろうと思ったのだと、笑うヘンリーの話をまとめると、どうやら。

 普段、過ぎるほどに真面目なリーンハルトに欲望を植え付けて手ごろな駒にするつもりだったらしい。

 私室に秘密裏の会議という名目でリーンハルトを呼び付け、引き入れた街の遊び女と、美酒と薬で酔わせる予定だったのに。

 成人になったばかりのリーンハルトは、最初に呑ませた酒一杯で潰れた。

 そして、呆れた王にベッドまで運ばれているうちに、女とバレてしまったようだった。

 ヘンリー王は、リーゼに覆い被さると、彼女の頬にそっと触れる。

 そしてそのまま指を、首筋から鎖骨の辺りまで滑らせた。

「…………!」

 たったそれだけでリーゼの背筋が、ぞわりと騒ぎ出す。

 王から逃げ出そうにもままならないその様子が、よほど気に入ったらしい。

 ヘンリーは、赤みがかった茶色の瞳をご機嫌に細めた。