「じゃあ、美都。またな」

「うん!また明日ね~」


エントランスで靴を履き替え、駐車場へ向かう私。


リムジンはたくさん止まってるけど、きゃーきゃーと騒がしいリムジンは、周りでただ1つ。


「黒木さん」


今日も今日とて、暑いというのに、汗ひとつかかず、淡々した顔で、長袖の執事服に身を包む黒木さん。


夕方とはいえ、まだまだ暑さの残る9月の半ば。



半袖でも暑いのに、長袖で襟付き。

絶対、暑いはずなのに。


常に自分の傍にいてもらうことに、チクリと胸が痛む。


「おかえりなさいませ、お嬢様」

「ただいまです」


そう言うと、ポンポンと頭を撫でられ、目を細めて微笑む。


ドキッ─────……


いやいや、ドキッ!じゃなくて!!


さっそく目的を見失いかけてるんじゃないよ!!


「あの黒木様が笑っておられるわ!!」


「破壊力がやばすぎる!!」

「ちょっと、あなたのせいで見えないじゃない!!」


お嬢様の黒木様の笑顔見たい戦争が勃発してる中、私はひとり、てんわやんわ。


甘えるって決めたんだから、いちいち反応してたらだめ!!



「では、帰りましょうか」


「は、はいっ!!」


「ふふっ、そんなに意気込んで……そんなに私に、会いたかったですか?」


「ち、違います……っ!!」


人差し指を唇に当てて、不敵に笑う。


これはもう一度、甘えることを自分に言い聞かせてだけで……

なんて、言えるわけもなく。


様になりすぎてるその仕草に、ふいっと顔を背ける。


あ〜もう!!

いちいち取り乱すな、私!!