「ま、またこの体勢ですかっ!?」
両腕を取られ、グイッと顔を近づけられる。
慌てる私に黒木さんは、
「っ!!」
さっきまでの柔らかい雰囲気から一変。
じっと射抜くような瞳はどこか恐ろしさを纏っている。
「村上さん」
「え?」
唐突な呼び方に固まると、優しく掴まれた手を離された。
「このように、お嬢様は男が大好物な無防備なことが多いです。もしかしたらこうやって、両手を取られ、キスされそうになることもあるかもしれません」
「………」
絶対にない、とは言えない自分がつらい……
現に今日だって、部活勧誘で普通に肩とか触られそうになったし……
「私もなるべくお嬢様のお傍におりますし、可愛いお嬢様に触れるなど、私が生きて返さないのですが、万が一ということもあります。そのためにぜひ、危機管理というものをしっかり持って置いて欲しいのです」
「わ、分かりました……」
い、生きて返さない?
今すごい物騒な言葉が聞こえたような……?
黒木さんだって、1人の人間で大学生。
常に私の執事として傍にいられるわけじゃないもんね……
コクンと頷くと、黒木さんも頷いた。
「では。私がクズ役、お嬢様はそれを受ける相手ということで、実践してみましょう」
く、クズ役……
苦笑する私に黒木さんは、あと…とつけ足す。