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「え、えーと……黒木、さん?」


「はい。どうされました?」



逃がさないと言うように、腰に回った手。

鼻がくっつきそうなほど、近い距離。



「今、なにしようとしてます?」


「なにって、お嬢様の大好きなキスを……」


「す、好きじゃありませんっ!!」


慌てて繋がれたその手を振り払い、口元をバッ!!と隠す。


「残念」


「残念っ!!?
てか、ど、どうしてキスなんて……っ!?」


ドッドッドと高ぶる心臓。


またもや出てきた甘いワードに、何もされたわけじゃないのに顔が熱くなる。


どうやら私は、本気でキスという言葉に弱いらしい。


「お嬢様があまりにもあの男子生徒のことを、楽しそうに話すものですから」


「だ、男子生徒?」


集まる熱を冷まそうと、パタパタと手で風を送る目の前で、不機嫌そうに……


今にも舌打ちしそうなほど、怖い顔をしている執事がひとり。


「はい。私が話しかける前、その方に耳打ちされていたではありませんか」


男子生徒?


耳打ち?



「ああっ!!!」