「まあ、いいです。
私の責め次第でしょうし。逃がす気は毛頭ありませんから」
「…………」
なんかぶつぶつ言ってるけど……
全部聞き流すに限る。
ガバッと起き上がり、ダッシュでベッドから窓の方へ駆け寄る私に、胸に手を置き立ったままにっこり笑いかけてくる。
それはもう、音がつきそうなくらいにっこりと。
恐ろしいほどの満面の笑み。
それなりに距離は離れているのに、恐怖を感じる佇まい。
こんな危なそうな人に甘えるなんて、もはやこれはキャラ以前の問題。
ふうっと小さく息を吐いて、冷静を持ち直す。
「さっきの私の質問に、まだ答えてくれていません。とにかく、私のことはお嬢様じゃなく苗字で……」
「先程も申し上げた通り、そのご要望はお嬢様であろうとも、お応えできません。旦那様にそうお呼びするよう、申しつけられておりますので」
「で、ですが……っ!」
「では、改めまして」
「は?」
話聞けっ!!
強引に話を止められた気がしてイラッとした私は、一瞬の隙をつかれたことに気づかなかった。