「大丈夫だよ」
黒くていやな気持ちがドロドロ渦巻いているようで落ち込んでいると、私の隣にギシッと重みがかかった。
「一色さん」
ニコッと笑ったその姿はいつも見るスーツじゃなくて、黒のタキシード。
それに合わせているのか、オールバックの髪は下ろして横に流している。
いつもと違いすぎて、なんだか別人みたい。
「あれ、もしかしてドキドキしちゃってる?」
「しっ、してません!」
慌てて違いますと首を振ると、ぷっと吹き出した一色さん。
「今は十夜がいないのと、SPの仕事中じゃないから敬語外すけど、平気?」
「はい。
全然大丈夫ですよ」
にこっと笑いかけると、良かったと一色さんも笑う。
「十夜だったら、マジで気にしなくて大丈夫だよ。見てみ」
目線で追うと、案の定な十夜さんの態度に思わず苦笑してしまった。
「あの、良かったら名前……」
「他人のあなたに教える必要あります?」
「かっ、彼女とかいますか!?」
「いませんけど、婚約者ならいます」
「あの、どんな人がタイプですかっ!?」
「好きな子以外、視界にも入れたくありません」



