「なっ、なんでしょう?」


きっと真っ赤になってるであろう顔を伏せて聞き返すと。


「キス、したかったですか?」


後ろから聞こえたのはとても嬉しそうに弾む声で。


「べ、別にっ……」


ばか。

そのまま受け入れようとしてたのはどこのだれよ?


「まあ、いいです。
手応えは十分にありましたから」


「え?」


「私がキスしたいと思っているように、お嬢様も同じ気持ちでいてくれてるようですし」


「っ!!」


ご機嫌にふわふわっと頭をなでられて、背中のチャックを直された。


「本当にかわいいですお嬢様。
とびっきり楽しい夜にしてあげますね」


行きましょうか。


そう言われて手を取られる。


十夜さんは私服でもなく、いつもの執事服でもなくて。


ビシッとスーツを着ていつも下ろしてる前髪をワックスで横に流している。


いつも目にかかっているから、両目がしっかり見えるのが貴重すぎて。

ついあの夜のことを思い出してしまう。



「十夜さんだって、負けないくらいかっこいいですよ……」



だれにも見せたくないくらい。


他の女の人に見られるのはいや。

私だけの隣にいてほしい。


自分でも分からない、ふと浮かんできた汚い感情。

ただの私の身勝手、わがままにすぎないのに。


「世界一可愛いお嬢様の隣にいるんですから、私も頑張りました」


なのに、心の内を見透かされたようにそんな言葉をくれる。


私をときめかせたり。

安心させたり。


もう気持ちが傾いているだけじゃ、済まないよ……