「十夜さ……」


「美都、美都……っ」


何度も私の名を呼ぶその声も背中に回された腕もどこか震えていて、思わず口を閉ざす。


「心配、しました」


そっと身体を離され覗き込んできた瞳は、ゆらゆらと切なげに揺れていた。


「いつになってもお嬢様が学校から出てこず、執事がもつ証明書で中に入ったはいいものの見つからず、一色……先程の者たちと探していた時、お嬢様が噴水に落ちる寸前で、心臓がとまるかと思いました」


そっと頬に手を当て、今にも泣きそうな目で私を見つめる。


「どうして、あんなことに?」


それから私は全てを話した。


クッキーを十夜さんのために作ったはいいものの、最低野郎に取られそうになったこと。

絶対に渡さないと抵抗しようしたら、噴水に落とされたということ。



「ほんっとに、お嬢様は……」


全てを話し終えた後、囁くように私を再度ぎゅっと抱きしめた十夜さん。


「まさかお嬢様がそこまでして私への物を守って下さったとは思いもしませんでした。それでだけで、幸せでおかしくなりそうです」


濡れたにも関わらず、ただただ嬉しいと言わんばかりに笑う十夜さん。


その笑顔に胸がきゅーんとなって、全身が熱くなる。


「ちょっと、十夜さんっ!?」


「こんなに嬉しいのは、人生で初めてです」


ひょいっと私を抱き上げ、ぎゅっと体を寄せる。


「帰りましょうお嬢様。
お嬢様には色々、手取り足取りお教えしないといけませんね」


「ひっ!!」


髪が濡れているせいか、色気が半端ない十夜さん。

ニヤリと笑った眼差しにゾクリとしつつも、大人しくリムジンに乗ることを決めた。