「十夜さん!?
大丈夫ですか十夜さん!!」
ハッと目を開けて飛び込んできたのは、いつもの黒いネクタイに、ベスト。
すぐに十夜さんの胸板だと気づいた。
「大丈夫ですよ、お嬢様。
こんなのなんともございません」
「で、でもっ……!」
溢れる涙をグッと堪えて見上げれば、十夜さんは私の頭に手をのせ優しく微笑んでいた。
浅いとはいえ、水面から守るようにして私を抱きしめたせいで、十夜さんは全身ずぶ濡れ。
私は足しか濡れてない。
「遅くなってしまい申し訳ございません。
すぐに車の手配を。一色」
「任せろ」
片耳にイヤモニをつけた十夜さんは何かを呟き、私をザバッとお姫様抱っこして噴水から出る。
「と、十夜さ……」
慌てる私をよそに、いつものリムジンと一台の車が目の前にとまり、真っ黒のスーツを着た5人の男の人が出てくる。
「一色。あとはよろしく」
「了解」
一色と呼ばれたその人は一言十夜さんと言葉を交わし、残りの4人を引き連れ、真っ青になったまま動かない最低野郎の元へ歩いていく。
「お嬢様に手を出したこと、決して許さない。
お前には色々話がある。来い」
鳥肌が立つほど低い声で言い放つと、最低野郎を引きずり、もう一台の車へと乗せる。