お嬢様、今夜も溺愛いたします。



「ヘラヘラしてるのはあなたの方でしょ」


ブチッと頭の中で何かが切れる音がした。


「は?」


笑っていた顔が真顔になり、一気に恐怖が襲ってくる。


でも私はやめなかった。


「なにも知らない他人のあなたに、知ったかぶりで十夜さんのことを口にしないで。汚れるから」


そして私はこれでもかと睨む。


「あなたみたいな最低な人に渡すクッキーなんてありませんから。お引き取り下さい」


目を見開いて固まる最低野郎に背を向け、私は歩き出す。


最悪だ。

こんな人のために時間を無駄にしてしまった。


十夜さんが待ってるっていうのに。


早く帰らなくちゃ。



「黙って聞いてれば、言いたい放題言いやがって」


後ろでブツブツ言っていたことに気づかなかった。


「やめてっ!!」


どうしてもクッキーが欲しいのか追いかけてきた最低野郎は、私のカバンを後ろから強く引っ張る。


「やめて!離してっ!!」


これは十夜さんのためにって作ったクッキー。

絶対に渡さないっ!!


キッと再度睨み返せば、ゾッとするほどの目で見下ろされた。


「皇財閥のお嬢様だからって、調子に乗ってんじゃねーよ!!」


「っ!!」


ドンッと背中を強く押され、私の体はスローモーションで前へと傾いていく。


最悪なことに目の前は淡いライトグリーンが一面に広がる噴水。


落ちる………っ!!


そう思ってぎゅっと目を閉じた時。


「お嬢様!!」


ふわっと安心するぬくもりに包まれて、そのまま噴水へと落ちていった。