「え、えーと……これ、は?」
目が点になる私をよそに、黒木さんはそれにゆっくりゆっくりナイフを落としていく。
「お嬢様のお考えの通り、抹茶ケーキでございます」
「ま、抹茶ケーキっ!?」
素っ頓狂な声が上がる。
「はい。これをお嬢様にどうしても食べさせたいと思いまして」
「…………」
え?え?
ちょっと待って?
よし。
1回整理しよう。
私は今夜黒木さんと過ごすはずだった。
しかも黒木さんは、やけに甘い夜だのなんだのと繰り返していた。
つまりは、とろけるどうのこうのって言ってたのって……
「黒木さん、一つ聞いてもいいですか」
「なんでございましょう?」
「なぜ上着を脱ぎ、腕まくりまでする必要があったのですか?」
「もちろん、袖にクリームがついてはいけないと思ったからです。これは皇財閥から支給されているものなのですが、如何せん生地ひとつに何百万。汚すなんてできませんから」
「じゃ、じゃあ、ボタンを外した意味って……」
「お嬢様は日頃から、お食事の際、いつも自分だけ食べているのは嫌だとおっしゃいますよね。せっかく自分で作ったものですし、お嬢様と一緒にいただこうと思いまして」
「え、ま、まさかこれ……黒木さんが?」
うそでしょ。
こんなウエディングケーキまで作れるなんて、ほんと何者なの黒木さん。
「はい。お嬢様に、と。抹茶ケーキ、お好きですよね?」
「す、好きですけど……」
確かに好きですよ!!
ここに来た初日だって黒木さん、抹茶のシフォンケーキ出してくれたもんね!!
だ、だからって……
「さすがに食事の際にまでボタンを止めているのは息苦しいですから」
そういう、こと……
全部合点がいったわ。
ガクッと項垂れた私に、黒木さんはどうされました?と聞くだけ。



