涙に逢うまでさようなら

店内が完成した翌日、わたしは長尺脚立に登っていた。

看板を取り付けるためだ。


「こう?」

「左側もう少し下に」

下から飛んでくる声を頼りに、看板の左側を下げる。

「これくらい?」

「もう……きもち」

「これくらい?」

「イエスっ、はっちりばっちり」

ずれないうちに固定して、という声を背中で聞きながら、店側に取り付けた金具に看板に取り付けた金具を引っ掛け、看板の金具をペンチで閉じた。

最後の一か所で力を入れすぎてしまい、金具の形が崩れた。

思わず出した「あっ」という声に、「社長?」と慌てた声が返ってくる。

「いや、大丈夫。金具の形が崩れただけだから」

「びっくりしたなあ、それくらいで大声出さないでよ。看板が飛んでっちゃうわけでもないでしょ?」

答える前に看板を上下左右に動かし、「大丈夫」と返す。

「ならいいよ。金具の形より安全性だから、求めるのは」

脚立を下り、地面に足をつけると同時に「そうだよね」と返した。


改めて店を見上げると、自分が結構なことをしたのだと再確認できた。

「すごい……」

これで成功すれば――と考えると、視界が滲んだ。

下を向いて鼻の下に指を当てると、「なんでもう泣いてんの」となっちに笑われた。

「まだまだこれからでしょうが」

「わかってるよ……」

鼻をすすると、なっちは「泣くなよ社長」と軽く背中を叩いてきた。

「さあさ、行きますよ? ネクストのステージへ。十四人にお披露目して、オーケーがもらえたらインターネットで宣伝」

やることはまだまだ残ってますよ、と続け、なっちは脚立を片付けにいった。