入学式でクラスごとに呼名された時――『A組 小暮千紘』と、名前を聞いた私の衝撃は誰にも想像はできないだろう。
自宅から徒歩圏内で、頭がバカじゃないところ。
私が高校を選んだのは、それだけの理由だった。
平穏に過ごすはずだったのだ。
降りやまない雨のことも美憂のことにも心なんて揺さぶられずに。
ただ、卒業さえできればなんだってよかった。
なのに、美憂のことを一番強く想っている小暮が視界にちらついた。
イライラした。美憂が話していた人とは違いすぎて。
私が思っていた以上に、美憂の喪失感に苦しんでいて。
だから、双子なんて絶対に言わない。
小暮にだけ、言わない。
そう強く決めていたのに……。
アンタが優しすぎるから、言いたくなった。
雨に打たれすぎて、おかしくなったのだ。
「でも俺は美憂の妹だから助けたんじゃないよ」
「え?」
「柴田だから助けた。危なっかしくて放っておけなかった」
じわりと、なにかが熱くなった感覚がした。
こんなに速くなる鼓動を、私は聞いたことがない。
「か、帰る」
「え、おい……!」
私は全力でまた雨の中へと戻る。
バシャバシャッと、跳ねる水しぶき。息を切らせながらアパートに着いて、ドアの前で深呼吸する。
慌てて持ってきてしまったタオル。
ぎゅっとすると、やっぱり小暮の匂いがした。



