きみとなら、雨に濡れたい




「ちょっとそこで待ってて」


暫く歩いたあと、私は古風な一軒家に着いた。

表札には【小暮】の文字。


玄関に入った私を置いて小暮は靴を脱いだ。

私の手を引っ張っていたので小暮も相当雨に濡れた。それを証拠に小暮が通った廊下には水滴が落ちている。


美憂がよくこの家に遊びにいっていたことは知っていた。『今日も千紘くんの部屋でね』と、のろけ話を何回聞いたことか。

家からは小暮の匂いがした。


……よかった。上がってなんて言われなくて。

まあ、アイツが美憂との思い出が残る場所に私を上げるわけがないけれど。

暫くして小暮はタオルを持って戻ってきた。


「これで拭いて」

言われるがまま受け取ったタオルで私は髪の毛を拭く。


「洋服はどうする?」
 
「べつに平気」

本当は濡れた生地が肌にまとわりついて気持ち悪いけど、我慢できないこともない。


小暮の髪の毛は湿っていた。お風呂上がりのように髪はぺちゃんこになり、垂れてくる滴を自分の腕で何度も拭いている。

先に自分がタオルで拭いたらよかったのに。

小暮が優しい人だということは分かっていた。
じゃなきゃ、美憂が心を奪われるはずがない。


「……なんで否定しなかったの?」

玄関は私の雨水で色が変わっていた。


「なにが?」

「誤解したでしょ、菅野のヤツ」