きみとなら、雨に濡れたい




柴田はなにか言いたそうな顔をするけど、結局いつもなにも言わない。

俺もあまり関わりたくないし、こういう気が強そうなタイプは苦手なので、また視線は下へと向く。


すると柴田はゆっくりとこっちに向かってきた。一瞬だけ足元のローファーが俺の前で止まったけれど、やっぱりなにも言わずにそのまますれ違った。


その瞬間、雨の匂いに混ざって鼻をかすめたフローラルの香り。


――『いい匂いでしょ?お気に入りのシャンプーなんだ』


そう言ってわざと髪の毛を左右に振りながら俺に匂いを伝えてきた彼女の姿が目に浮かんだ。



……アイツも同じシャンプーかよ。


別に期間限定の商品じゃなかったと思うし、駅前のドラッグストアに行けば普通に買えるものだから柴田が使っていてもなんの不思議でもない。
けれど、なんとなく彼女だけの香りじゃなくなってしまった気がして落ち込んだ。


そうやって雨に塗りつぶされるように、彼女との思い出がひとつひとつ上書きされていく。

それがたまらなく苦しいと感じている内は、この町が晴れることなんてないんだと思う。